医療法人の設立についてご案内いたします。

流れ(東京都)

  1. 月初旬、3 月中旬仮申請
  2. (東京都からの補正に対応)
  3. 12 月末、6 月末本申請
  4. 2 月下旬、8 月下旬認可書交付

名称

よく例として挙げられている「○○会」という名称が多く見受けられます。また、分院をつ
くる予定がないということで、個人時代のクリニック名をそのまま法人名にしているケースも
よく見かけます。

同一管轄内では早い者勝ちとなるため、申請前に照会をかけます。
また、「誇大な名称は不可」ということで、「第一」「中央」「セントラル」、なぜか「クラブ」な
どは却下されます。「安心」「安全」など、保証するような文言も不可です。

ご自身やご家族のお名前、目指す医療の内容などから、1字とられることが多い印象です。アルファベットも使えますので、頭文字なども考えられます。

役員

まず、『誰を役員にするか』考えます。
役員には「理事」と「監事」があり、
理事3 名以上
監事1 名以上
を選任しなければなりません。

理事3 名以上のうち1 名が「理事長」となります。理事長には、大原則として院長先生自身がなります。ほか2 名の理事ですが、たとえば奥さまと成年のお子さまなどがなるということで問題ありません。

自治体にもよりますが、原則として特に能力的担保は求められませんので、どなたでも選任することができます。

「監事」は誰が適任か

役員のうち監事につきましては、各自治体とも要件として「第三者性」を要求しています。これは法律上の規定というよりも、理事会をチェックする役割を担うという監事の立場から、チェック機能を果たすにふさわしい人選をすべきという考え方です。

顧問税理士などの取引先は「第三者」と言えませんので、医師・歯科医師のご友人、顧問税理士の知人など、取引きのない方を選任してください。

監事は
①取引関係のない
②第三者・・・(自治体にもよりますが、6 親等まで不可とお考えください。)
を選任してください。

監事にも、履歴書を提出していただきますので、そこで関係性が疑われるような方を選任することは避けてください。

実際の職務としましては、年に一度、「監事監査報告書」に押印をいただきます。会計書類を確認し、適正であることを監査していただきます。その中には、重要な社員総会・理事会に出席することも明記されていますので、会議に出席可能な方をお願いします。

もしも、申請途中で「不適切である」と判断されてしまうと、自治体によっては申請を次回に回されてしまうこともありますので、リスクのある方も避けるべきです。

時系列として、設立総会を開催した上で申請をしています。すでに終わってしまった総会に、実は他の候補者が出席していたという説明は、いかにも苦しいものになるというわけです。自治体によっては、当然のように差し替えが認められますが、東京都では前述の時系列から考えて認められない可能性が高いのでご注意ください。

医療法人の”社員”とは

理事・監事という役員のほかに、“社員”という「役職」があります。

社員は
①拠出は任意
②一人1議決を要する
③オーナー
という立場です。

医療法人の“社員”は、会社等のいわゆる従業員とは異なります。上述のとおり【オーナー】といえる支配権を持っていますので、「役職」として考え、身内のメンバーで固めておくことが肝要です。

医療法人においては、“社員”こそが、実質的に医療法人を運営していく権限を持っています。理事・監事など役員を選解任する力を持っています。

この権限は「一人1 議決権」ですが、つまりは「社員総会で多数派を占める」ことが医療法人の支配権の確保ということになります。医療法人を乗っ取ろうとする場合、社員総会の多数派を占めることで達成できてしまいますし、社員の入退社(選任)は社員総会で同意すれば完了してしまいます(どこかへ届出等、行政手続は不要)。

“社員”という単語が紛らわしいですが、重要な「役職」であることを忘れないでください。

拠出金・拠出財産について

医療法人が成立するためには、診療所を開設・運営する能力があることが必要です。
まず、大前提として医師が主体となっているか(ヒト)。

診療所として使用する物件が確保されているか。
医療機器等、必要な機材がそろっているか(モノ)。

スタート時に必要となる資金が準備できているか(カネ)。

こうした点について、説得的に説明できるよう資料を添付することが必要です。

具体的には、
ヒト→(歯科)医師免許証等の資格証、履歴書、印鑑登録証明書など
モノ→賃貸借契約書、財産目録、減価償却費計算書など
カネ→金融機関の残高証明書、診療報酬支払額決定通知書など
が、プラスの資産を有することの証明書類です。

負債の引継ぎ

一方、プラスの財産に付随するマイナスの財産というものもあります。例えば、内装工事や医療機器購入の際、その資金を借入れによって用意した場合です。
この場合、借入金から生じる負債も法人に引き継ぐことができます。
しかし、そのためには、下記を説明する必要があります。

① 借入れ→契約・購入の順であること
② 拠出者自身が支払ったものであること
③ 資産として計上されていること
④ ②と③につながりがあること

具体的には以下のものをご用意いただきます。

  1. 金銭消費貸借契約書(融資証書)
  2. 返済予定表
  3. 工事請負契約書、売買契約書
  4. 見積書・請求書、領収証

必ずそもこれらの書類がなければならないという訳ではありませんが、東京都においては、これらの資料について特に厳格に解釈するようになってきています。

たとえば、領収証について申請のために発行・再発行を求めてきます。また、減価償却費を計上している場合、その取得価額と領収額が一致するように説明を求めてくることもあります。

このあたりの取扱いにつきましては、各自治体によってかなり差がありますが、最終的には債権者次第のところもありますので、申請の時点ではあくまでも認可のためにどのように対応するか、自治体の担当者とよく話すということになります。

車は引き継ぐべき?

前提として、所有権が留保されている段階(ローンの支払い途中)では、引き継げません。
しかし、かかった費用を法人の経費に計上することは可能ですので、引き継げなくてもそれほど差は生じません。また、後述する「基金」の適正額から考えても、必ずしも引き継ぐ必要はありません。

基金とは

基金とは

剰余金の分配を目的としないという医療法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の
原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図る。

(平成19年3月30日医政発第0330051 号「医療法人の基金について」)

ための制度です。

株式会社で言うところの「資本金」に該当するものですが、配当を受け取ることはできません。そのかわり、一定期間後に剰余金が発生すれば、無利息で返済してもらうことができます。

「返済」ですので、特に税金がかからず受け取れる点がメリットです。
もし、基金制度を採用せずに拠出してしまうと、寄付をしたのと同じになってしまいます。
つまり、もう返ってきません。基金制度を採用した上で、拠出することをお勧めします。

金額の目安は

行政側は保険診療を想定していますので、認可を得るためには、医療法人設立後2 か月間の運転資金を上回る現金が確保できていることを示せば十分です。

ただし、「活動の原資」として拠出していますので、設立直後に返還することは趣旨に反してしまいます。

数年間は返還できない契約であることが望ましいとされています。
また、基金はのちほど純資産額が増加すれば返還してもらえますが、増加分が基金を賄える範囲での返還に制限されます。

つまり、基本的に医療法人には、基金以上の現金をプールしておかなければならないことになりす。
従って、2 か月分の運転資金を上回るという条件を満たせば、必要以上に多額の基金は不要です。

残高証明は、いくらあればよい?いつとればよい?

前述のとおり、「2 か月分の運転資金を上回る」金額ということになります。保険診療報酬があれば、合計でかまいません(確定申告実績があれば、直近2 か月分まで拠出可能)。

いつ時点のものを取得するかにつきましては、各自治体で定めている「基準日」にもよりますので、別途ご案内いたします。

決算期をいつにするか

個人だと12 月末決算で固定ですが、法人の場合は自由に決めることができます。
決算期を決める際に考えるべきポイントは二つあります。

一つは、最初だけですが「消費税の免税期間を長く取れるように」、設立から約半年後を最初の決算とすると最大1 年半、免税期間を取れます。

もう一つは、「毎年のサイクルを考えて」、入金の多い月を決算期とするという考え方です。

税理士さんにもご相談いただきながら、決定していただければと思います。

医療法人化はメリットがなくなった?

「医療法人化してもメリットがない」と言う方もいます。
しかし、大昔のように、医療法人化すればそれだけで節税になった時代は終わったというだけのことで、メリットはあります。

持ち分の有無について

平成19 年度施行の、いわゆる“第5 次医療法改正”以前は、「出資持分」という概念があり、設立時に差し出した財産は割合に応じて返してもらうことができました。


しかし、平成19 年度以降はそれがなくなり、いわゆる“持分なし法人”となっています。
そのため、最初に差し出した(拠出)財産は、原則として寄付同様の扱いとなります。
ただし、「基金制度」を採用して拠出した財産であれば、利息はつけられませんが返還してもらうことができます。

このことをもって、「医療法人化のメリットはなくなった」と言う方もいます。
しかし、出資持分の返還時に金額が大きくなってしまうことは、相続の際には予想外のハードルとなりかねません。

また、当初に比べて大きくなりすぎた持分は、譲渡や相続による承継時には悩みの種となってしまいます。
単に法人化さえすれば節税になった時代はとうに終わり、設立後に法人をどう活用するかがポイントとなっています。

法人化のメリットを活かせる運営をしていきましょう。

その他気になること

MS法人とは?

MS 法人とは「Medical Service 法人」の略であり、特別に法律的な制度があるわけではありません。
通常の株式会社・合同会社などに、医業をフォローする役割を担わせたものです。

かつて、MS 法人を節税のために設立することが流行した時代がありました。
しかし、現行法の下では医療法人のほうがむしろ税率が低く、節税だけを目的にするのであれば株式・合同会社などの営利法人を活用することは意味が薄いと言えます。

ただし、個人に比べれば株式・合同会社の税率は低いので、個人診療所+ MS 法人は、パターンとしてはアリです。

一方、バックオフィス的な活用や許認可事業者としての活用、ドクター以外のスタッフを在籍させるなどの活用は考えられますが、保険診療がメインの場合、いわゆる“損税”も発生してしまいます。

なんのためにMS 法人を活用するかを明確にした上で、ご検討ください。

年に一度、報告義務が追加されました

平成29 年4 月以降に開始した年度から、「関係事業者」に該当する相手との取引について報告することとなりました。

報告義務の有無

医療法人役員の身内が役員や過半数以上の株主となっている法人が、医療法人と年間1 千万円以上の取引をした場合、その年度の決算届(事業報告)の際に報告書を添付しなければなりません。

報告内容について

内容と金額を、所定の様式に記入します。
自治体にもよりますが、そもそも取引があること自体を問題視するところもあり、金額の算定根拠を追加で聞かれることがあります。
現状では単に報告までですが、実態を把握した上で規制やペナルティを科してくる可能性は十分にありますので注意が必要です。

新規指導の有無

よく聞かれるのですが、個人から医療法人化をした場合、原則として新規指導が入ることはほぼないと言ってよいです。

保険診療に関しては、厚生局が保険医療機関ごとに管理しています。
従って、医療法人化しても管理者(院長)の変更がないのであれば(より正確には、患者を引き継げるのであれば)、あらためて指導をする必要性は低くなります。

法人化のタイミングで世代交代や夫婦間などでの交代をした場合などは、変更があったということになりますので、新規指導の対象とはなります。

ただ、そのすべてを指導に巡るというのは現実問題として厳しいため、優先度はかなり低いと考えて間違いはありません。
とはいえ、新規指導がないとは言い切れないため、備えておくことは必要となります。

広域医療法人

平成27 年3 月までは、都道府県ではなく国が管轄する医療法人がありました。
しかし、現在はすべて都道府県に権限委譲されています。主たる事務所のある都道府県が管轄となります。

これまで、国管轄になることをおそれて進出を躊躇していた法人にとっては、制限緩和となりました。