医療法人とは医療法で定められた法人です。
医師若しくは歯科医師が常時勤務する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(以下「診療所等」という。)を開設しようとする社団又は財団は、都道府県知事の認可を得て、医療法人とすることができます。
そもそも医療法人とは?
医療法人には、現存しないものも含めて様々な種別や区分が存在しています。昭和25年の医療法改正で制度が創設された医療法人は、人の集まりである「社団」と財産の集合体の「財団」に大別されますが、現在では医療法人の多くが「医療法人社団」となっており主流となっています。
更に医療法人社団は、平成19年の第5次医療法改正以前に設立され、その後も経過措置として旧医療法の適用を受けている「持ち分あり社団」と、平成19年以降に設立され、または平成19年以前に設立されて、その後に定款変更で持ち分の差額を削除した「持ち分なし社団」に大別されます。
そして「持ち分なし社団」は、基金制度を持つものと持たないものに分かれますが、実際にはそのほとんどが「基金制度を持つ持ち分なし社団」となっています。
医療法人社団とは
複数の人(自然人)が集まり、現金、不動産、医療機器など一定の財産を拠出した団体が都道府県知事の認可を受け、登記することにより成立する医療法人形態です。
社員総会が最高意思決定機関となり、法人内の最高法規としては「定款」で基本的事項を定めることになります。
持ち分なし社団とは
定款規定中に「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資金に応じて分配する」「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じで払戻しを請求することができる」といった規定を持たない医療法人の総称です。
第5次医療法改正以降、新規に設立可能な医療法人社団はこれのみであり、経過措置型医療法人も持ち分を持つ社員全員が持分を放棄し、定見変更することでこの形態に移行するのが原則ですが、なかなか進んでいません。
基金拠出型法人とは
持分なし社団の中で、法人の資金調達手段として定款中に基金に関する条項を持つものを「基金拠出型法人」と称します。
第5次医療法改正以降に新設される法人の多くは、この方式を採用していす。
一人医師医療法人とは
医療法改正(昭和60年)前の医療法人(病院又は常勤の医師又は歯科医師が3人以上勤務する診療所を開設する医療法人)に対し、改正後の医療法人のうち常勤の医師又は歯科医師が1人又は2人勤務する診療所を開設する医療法人を、いわゆる「一人医師医療法人」と言います。
しかし、医療法上は、設立、運営、権利及び義務に関して何ら区別はありません。
役員、社員及び評議員が1人でいいということでもありません。
医師・歯科医師でなくても理事になることは可能ですので、医師・歯科医師以外も含めて理事3人・監事1人以上で設立します。
医療法人の役割
医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めることとされています。
医療法人化に伴うメリット&デメリット(法務編)
税務面につきましては、やはり税理士さんにしっかりご相談ください。
行政書士からは、税務以外の面を中心に、医療法人化のメリットとデメリットをご提示いたします。
本当に医療法人化する必要があるのか、したほうがよいのかは、どんな医療を理想とするのか、どんなワークスタイルを望むかという視点からもあわせて判断していただければと思います。
- 医業経営と家計の分離が図れます。
金融機関等に対する信用が高まり融資が受けやすくなるので、経営基盤の安定化につながる。 - 所得を給与にできます。→ 経費にできます。
所得を分散した上、法人の経費にできるので、節税方法を検討できる。 - 社会保険診療報酬について源泉徴収されなくなります。
個人の場合は源泉徴収されるが、法人は全額回収することができる。 - 役員の退職金の活用が可能になります。
個人には退職金という考え方はないが、法人の場合は退職金を支払うとともに費用にすることができる。
しかも、個人事業時代の通算分は損金算入できない(福島地裁H4.10.19判決)ので、早めに法人化したほうが有利。 - 分院開設、介護事業への進出が可能になります。
介護老人保健施設、訪問看護ステーションなど、介護事業を行うことができるようになる(別途、手続きは必要)。
また、分院の開設には、医療法人化が必須。移転の際にも、空白期間をつくらなくて済む。 - 法人契約の生命保険の活用が可能になります。
法人の場合、全額ではないものの費用とすることができるので、リスクマネジメントしやすい。資産の形成もしやすい。
- 自由に使えるお金が(いったんは)減少します。
個人では残ったお金は自由に使用できるが、法人では給料以外のお金は自由に使えない。
これまではすべて理事長が受け取っていたものを分散するので、可処分所得を全体で考える必要がある。 - 医療法人化の際、運転資金名目の借入金は法人に引き継げません。
法人になる際、運転資金の部分は引き続き個人が払い続けなければならない。
設備投資のための借入金であれば法人に引き継ぐことができ、利息は損金に算入できる。 - 医療法人設立費用および毎年の手続きのため、費用と手間が増えます。
医療法人になると、設立はもちろん定期的に主務官庁への報告等が必要になるので、費用とその手間が増える。
医療法人設立のタイミング
個人で診療所を開設して、患者数も伸びてきたら、医療法人化は誰しも考えることです。売上げが増えて節税を意識し始めれば、個人と医療法人のどちらがよいかは気になりますよね。
しかし、医療法人化の適切なタイミングについては個別具体的な検討が必要であり、売上げだけで判断することはできません。いったん医療法人を設立したら、簡単に辞めるわけにいきません。売上げが下がったからやっぱり・・・というわけにはいかないのです。
従って、売上げだけを見るのではなく、開設からの年数や今後の見通しについても考え合わせることが必要です。
個人開設から2年以上たち、今後もその場所で続けていくのであれば、法人化を検討するタイミングです。しっかり腰を据えて診療に専念していくためには、安定した基盤として法人とすることは、検討する価値十分です。
また、個人に対する課税は、その一人に対して従量制でどんどん増えていき、約半分は税金となりますので、ノーガードですべて真正面から受けることになりますが、法人であれば工夫のしようもあります。そうした点からも、できるだけ早めに検討し、準備を進めていくことが重要です。
平成19年の第5次改正についてのポイント
いわゆる第5次改正により、医療法人制度は大きく変わりました。
特に、持分のある医療法人の設立ができなくなり、これまで以上に「法人にすれば節税になる」と単純には言えなくなっています。将来的なことも考えた上での法人化が、より重要性を増しています。法人化前の準備も、より重要になっています。あるがままに法人化を進めても、こんなはずじゃなかった・・・ということになりかねません。
もっとも大きな変更点は、やはり新たに設立できる形態が、「財団である医療法人」・「社団である医療法人で持分の定めのないもの」に限られたということでしょう。今後医療法人を設立する場合、出資した金額以上の払戻しは認められないということが徹底されるのです。基金制度を採用するとしても、その規模など、慎重に検討する必要があります。
また、既存の法人にとっても重要な点があります。医療法人の管理等に関する事項にあるとおり、「医療法人の内部管理体制の明確化」が強化されました。特に、監事の役割が医療法で明文規定となり、これまで以上に名目だけの役員がないよう、チーム医療だけでなくチーム運営が重要となっています。
この点は、これから設立を考える際にも当然ポイントとなります。
医療法人の設立認可申請の際に注意すべき点として、地方自治体ごとの違いにも気をつけなければなりません。
東京都では、必須ではないものの、説明会は年に1回しか開催されず、申請時期は3月と9月の年2回しかありません。千葉県では、監事以外にも第三者理事を選任するよう指導があり、説明会にも必ず出席しなければ仮申請すら受理されません。
理想的な医療を実現するために、どのようなことが可能で、どのようなことが必要なのか、しっかりと情報収集していく必要があります。
医療法人の設立
「医療法人の設立」と一言で言っても、実際にはどのような手続が必要なのでしょう。医療法人を設立するためには「認可」が必要ですし、文字どおり「設立」だけをしても空っぽの箱ができるだけです。認可を得て設立して、そのあとの個人から法人への切替えこそが重要になります。
いわゆる医療法人化とはどのようなものなのか、全体を見通していただきたいと思います。